第1編 生命のデータサイエンスから社会実装まで
10月2日(水) 17:00~17:10「はじめに 計算生命科学の概要」(担当:長浜バイオ大学 白井剛)
▼1.1「構造インフォマティクスの基礎」《10月2日(水)》
配信後の質問(PW)
長尾 知生子(医薬基盤・健康・栄養研究所 創薬デザイン研究センター インシリコ創薬支援プロジェクト サブプロジェクトリーダー)
生体内で起こるシグナル伝達や化学反応を理解するためには、その分子的な担い手であるタンパク質の立体構造と分子認識機構を解析する必要がある。本講義では、特異的な相互作用という切り口から、基礎から応用まで、構造インフォマティクスについて解説する。
▼1.2「リアルワールド医療情報から人工知能開発へ」《10月9日(水)》
配信後の質問(PW)
大江 和彦(東京大学大学院医学系研究科 医療情報学分野 教授)
電子カルテの普及により臨床現場でのリアルワールド医療データの電子的記録と蓄積が進んでいるが、データの標準化や品質管理面でまだまだ多くの課題もある。一方で、このデータを多施設ビッグデータとして研究開発に活用するプロジェクトがいくつも実施されており、人工知能(AI)システムの開発や医学知見発見への貢献が期待されている。本講義ではこうしたデータ収集とデータ活用状況とそこに内在する課題、そして医療でのAI開発の状況などを概説する。
▼1.3「クリニカルシーケンシングの基礎と実践」《10月16日(水)》
配信後の質問(PW)
嶌田 雅光(タカラバイオ株式会社 CDMセンター 専門部長)
次世代シーケンサーを用いてがん関連遺伝子変異を網羅的に検出し適切な分子標的薬を選択するクリニカルシーケンシングが実践され始めている。本講義では、国内のがんゲノム医療の提供体制とがんパネル検査の状況を紹介する。また、大阪大学医学部附属病院において実施しているクリニカルシーケンシングの実践状況を具体的に紹介し、クリニカルシーケンシングの実施の必要要件とバイオインフォマティクスの役割を解説する。
▼1.4「機械学習・人工知能技術入門」《10月23日(水)》
配信後の質問(PW)
瀬々 潤(株式会社ヒューマノーム研究所 代表取締役社長/東京医科歯科大学 特任教授/産業技術総合研究所 人工知能研究センター 招聘研究員)
生命科学において計測されるデータを解析することで、基礎面では生命の理解、応用面では医療、創薬、薬学、農学へと繋がる期待は高い。本講義ではこれらの解析の基礎となる機械学習や数理統計技術の説明にはじまり、人工知能の導入を解説する。また、人工知能と現在の産業との関わりや計算生命科学の応用に関する重要性を紹介する。
▼1.5「バイオメディカルインフォマティクス概論」《10月30日(水)》講義資料(10/31リバイス)
講義動画
谷嶋 成樹(三菱スペース・ソフトウエア株式会社 関西事業部 バイオメディカルインフォマティクス開発部 部長)
臨床現場におけるバイオインフォマティクスの役割をのべる。近年臨床現場でバイオインフォマティクスのニーズが急速に高まっている。特に2019年に保険収載予定のがんゲノム検査については、バイオインフォマティシャンがエキスパートパネルと呼ばれる専門家会議の必須の構成要員とされている。また、今後臨床研究の広がりが加速するiPS細胞を応用した再生医療等でも細胞のゲノム評価が必須のプロセスである。このように、臨床現場やそれに近い研究の現場でのバイオインフォマティクスの役割について、実際のデータを交えながら解説する。
【第1編 参考図書】
1. Mark L. Braunstein Health Informatics on FHIR: How HL7's New API isTransforming Healthcare Springer 2018
2. 中釜斉 監修「動き始めたがんゲノム医療」実験学増刊 36 2018
3. 松本 直通,難波 栄二,古川 洋一 編集 「臨床応用に向けた疾患シーケンス解析」遺伝子医学MOOK34 2018
4. 瀬々潤、浜田道昭 「生命情報処理における機械学習:多重検定と推量設計 」 講談社サイエンティフック 2014
5. 二階堂愛 実験医学別冊 次世代シーケンス解析スタンダード 羊土社 2014
6.宮園浩平他 「デヴィータがんの分子生物学第二版」 メディカルサイエンスター、2017
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第2編 構造生命科学のための分子シミュレーション
▼2.1「量子化学計算の現在と近未来」《11月6日(水)》講義資料
配信後の質問
講義動画
常田 貴夫(神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科 特命教授)
量子化学計算は反応解析や材料設計の実験検証に不可欠な手段となっている。その主要理論が密度汎関数法(DFT)であり、現在9割を超える量子化学計算で利用されている。DFTは化学を取り扱うために精度を高め、従来の量子化学では困難とされてきた問題を続々解決してきた。近年、DFTをさらに発展させる可能性がある要素としてデータ科学が注目を集めている。本講義では、最新のDFTとデータ科学の導入による発展の可能性について紹介する。
▼2.2「ハイブリッドQM/MM法による生体分子機能解析」《11月13日(水)》【資料配布なし】
配信後の質問(PW)
林 重彦(京都大学大学院理学研究科 教授)
酵素活性や生体情報・エネルギー変換など、生体分子の顕著な分子機能では、局所的な反応活性中心部位の触媒化学反応が大域的な機能的分子構造変化と相関することにより達成されている。そのような大きな生体分子中における化学反応解析を可能にするのがハイブリッドQM/MM法である。本講義では、ハイブリッドQM/MM法の理論的背景を概説し、それを用いた生体分子機能に関する研究を紹介する。
▼2.3「溶液中における生体関連分子複合系の自由エネルギー解析」《11月20日(水)》講義資料
配信後の質問(PW)
講義動画
松林 伸幸(大阪大学基礎工学研究科 化学工学領域 教授)
溶液中におけるタンパク質や脂質などの生体関連分子は、溶媒との分子間相互作用の下で構造を形成し機能を発揮する。本講義では、分子シミュレーションと溶液統計力学理論の融合に基づく生体関連分子複合系の自由エネルギー解析を概説する。統計力学と分子シミュレーションの基礎から出発して、溶媒和理論の構成について述べ、タンパク質構造に対する共溶媒効果、タンパク質複合体の安定性、および、タンパク質−脂質膜相互作用の分子レベル解析に進む。
▼2.4「大規模分子系の第一原理計算と量子生命科学」《11月27日(水)》
配信後の質問(PW)
講義動画
田中 成典(神戸大学大学院システム情報学研究科 教授)
量子力学に立脚した第一原理電子状態計算は、生体分子系の関わる相互作用や励起ダイナミクスを定量的に記述する上での基礎となる。本講義では、生体分子系の量子化学計算アプローチの一つとしてフラグメント分子軌道法の基礎と応用を紹介するとともに、近年注目を集めている「量子生命科学」への展開についても触れる。生命系において「量子性」を論じることの意味・意義について、様々な観点から、できるだけ簡明に述べたい。
▼2.5「インシリコ創薬支援のための分子シミュレーション活用法」《12月4日(水)》
配信後の質問(PW)
講義動画
広川 貴次(産業技術総合研究所 創薬分子プロファイリング研究センター 研究チーム長/筑波大学 教授)
クライオ電顕をはじめとするタンパク質立体構造解析技術の発展により、構造データを起点とした創薬支援研究が再び注目されてきている。しかし、構造データの中には、特定の条件や環境に依存した構造情報もあり、そのままのデータでは創薬へ適用が難しいものがある。分子シミュレーションは、このような問題を補完できる技術として注目されている。講義では、構造データと創薬を橋渡しする高度なインシリコ創薬支援技術について基礎と応用事例について紹介する。
【第2編 参考図書】
1. 常田貴夫「密度汎関数法の基礎」講談社 2012
2. 林重彦, 「ハイブリッド分子シミュレーションによるロドプシン光受容体の分子機能の理解と設計」医学のあゆみ 第5土曜特集号「生命現象を観る-革新的な構造科学が観せてくれる世界」 医歯薬出版株式会社, 2017, 262, 552-558
3. 林重彦 ,「ハイブリッド分子シミュレーションと実験研究の接点で見える生体機能のメカニズム」化学フロンティア 23 「1 分子ナノバイオ計測-分子から生命システ ムを探る革新的技術」化学同人, 第 6章, 89-98 (2014)
4. 林重彦 ,「タンパク質の生物学的機能と化反応」岩波講座計算科学第4巻 「計算と生命」岩波書店,第3.3章, 98-112 (2012)
5. QM/MM geometry optimization on extensive free-energy surfaces for examination of enzymatic reactions and design of novel functional properties of proteins. Shigehiko Hayashi*, Yoshihiro Uchida, Taisuke Hasegawa, Masahiro Higashi, Takahiro Kosugi, and Motoshi Kamiya. Annu. Rev. Phys. Chem.,68, 135-154 (2017). DOI: 10.1146/annurev-physchem-052516-050827
6. https://sourceforge.net/p/ermod/wiki/doc-LectureNotes
7. https://sourceforge.net/p/ermod/wiki/doc-Theories
8. 田中成典「計算分子生物学:物質科学からのアプローチ」内田老鶴圃 2018年
9. 田中成典「量子生命科学の展望」、実験医学 Vol. 35, No. 14(2017年 9月号)2423 -2427.
10. 田中成典「生体分子夾雑系の理論計算化学:分子論から生命論へ」、現代化学 No. 579 (2019年 6月号) 47-51.
11. S. Tanaka, Y. Mochizuki, Y Komeiji, Y Okiyama and K. Fukuzawa, “Electron-correlated fragment-molecular-orbital calculations for biomolecular and nano systems” Phys. Chem. Chem. Phys., 16, 10310-10344 (2014)
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第3編 ビッグデータ・AIの健康科学への活用
12月11日 17:00~17:10『第3編の説明』(担当:神戸大学 森一郎)
▼3.1「生体系分子シミュレーションの新展開」《12月11日(水)》講義資料
講義動画
池口 満徳(横浜市立大学大学院生命医科学研究科 教授)
生体系の分子シミュレーションは、生体分子の立体構造に基づく機能理解(創薬等も含)によく用いられており、コンピュータの性能が上がるにつれ、その適用範囲は拡大を続けている。日本でも、「京」の次のスーパーコンピュータ「富岳」の構築が始まり、今後の活用に期待が持たれている。本講義では、ポスト「京」と呼ばれていた「富岳」での生体系分子シミュレーション研究の展望や人工知能技術との連携などについて解説する。
▼3.2「健康・医薬研究の基盤としてのデータ統合と人工知能活用」《12月18日(水)》
配信後の質問(PW)
水口 賢司(医薬基盤・健康・栄養研究所 バイオインフォマティクスプロジェクト プロジェクトリーダー)
コンピュータフレンドリーな形に整理されたデータをどれだけ利用できるかが、人工知能開発の成否に大きな影響を与える。本講義では、マイクロバイオームデータ解析や薬物動態モデリングなどの具体例を用いて、データ統合とデータベース構築の重要性について、さらに社会実装に向けた試みを議論する。
▼3.3「プロテオミクスから得られるビッグデータをいかに診断・治療に結びつけるか?」《1月15日(水)》
講義動画
朝長 毅(医薬基盤・健康・栄養研究所 創薬標的プロテオミクスプロジェクト/プロテオームリサーチプロジェクト 上級研究員)
プロテオミクス技術の飛躍的進歩により、1回の解析から万単位のタンパク質・リン酸化タンパク質の同定・定量情報が得られる時代になった。本講演では、そのプロテオームビッグデータをいかに病気の診断や治療に応用するかについて、我々が現在取り組んでいる、がんの早期診断法およびオーダーメード治療法の開発を中心に紹介したい。
▼3.4「歩き方からわかること~個人認証から健康長寿まで~」《1月22日(水)》【資料配布なし】
八木 康史(大阪大学 産業科学研究所 教授)
画像処理の分野においては、人の歩き方から個人を認証することを歩容認証“Gait recognition”という。歩容認証は、個人毎で体型や動きが異なることに着目した個人認証技術で、自治体・警察支援によるスーパー防犯灯、商店街、スーパー等における防犯カメラなど、さまざまな場所に設置された防犯カメラ映像から、容疑者を特定する技術として期待されている。では、どうやって個人認証を行うのか。本講演では、我々が提案する歩容認証技術の概要と課題、さらに、歩容を使った新たな応用である健康利用について紹介する。
▼3.5「ヘルスケアビッグデータ解析により開発した健康関数」《1月29日(水)》【資料配布なし】
水野 敬(理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム健康計測解析チーム・新規計測開発チーム チームリーダー)
「健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス」(https://rc.riken.jp/)は、より正確な健康維持・増進への指針、つまり将来にわたり健康で“生き活き”とした人生を送っていく上での「羅針盤」の提供を目指している。そのために、主に疲労科学の知見に基づく健康計測項目を定め、2,000人以上のヘルスケアビッグデータを取得し、健康増進~疾患発症前段階の未病状態と、健康度を精緻に把握するための新しい概念「健康関数」の開発を行った。本講演では健康関数開発状況と未病克服のためのソリューション開発の応用など今後の活用法について紹介したい。
【第3編 参考図書】
1. 渡辺 恭良 (編集 ), B.H. Natelson (編集), L.A. Jason (編集), B. Evengard (編集), 倉恒 弘彦 (編集) 「Fatigue Science for Human Health」Springer Japan 2018
2. 渡辺 恭良 (著), 水野 敬 (著), 浦上 浩 (著) 「おいしく食べて疲れをとる」 オフィスエル 2016
3. 渡辺 恭良 (著), 水野 敬 (著) 「疲労と回復の科学 (おもしろサイエンス )」日刊工業新聞社 2018
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